何をやっても時間はたつ(chairman's message)
HOME > メッセージ (何をやっても時間はたつ)
沼正作先生
沼正作先生

上の言葉は、1985年の或る日、故沼正作先生が私に言われた言葉です。
当時、私は、36歳の助手で、京都大学医学部の医化学教室から薬理学教室に移ったばかりでした。

沼先生は、元々、脂質生化学者で脂肪酸合成の研究をしておられましたが、1970代後半から、分子生物学を神経科学の分野に導入され、ニコチン受容体やナトリウムチャネルなどのcDNAを次々にクローニングされ、分子神経科学のパイオニアとして世界のトップに立たれていました。私も、前年にその手法を学ぶべく、先生のカルシウムチャネルのお仕事に参画させて頂いていました。

薬理学教室に移るとともに、その仕事からは身を引きましたが、そんな私を心配されたのでしょう。或る日の電話を掛けてこられ言われたのがこの言葉です。
先生の言葉は、ついで『何をやっても時間が立つのだから、出来るだけ大事で、意味がある仕事をやりなさい。』と続きました。実は、これは、薬理学教室に行っても、自分と一緒にカルシウムチャネルの仕事を続けても良いというお話だったのですが、当時、私は、すでに現在のテーマであるプロスタグランジン受容体と低分子量G蛋白質Rhoの2つの仕事を初めていましたので、先生のお話そのものは丁重にお断りしましたが、先生の言われた言葉は、その声音と一緒に今でも覚えています。それは、この言葉が真実を衝いており、私も折りに触れ、それを実感してきたからです。

確かに、何をやっても時間は立ちます。若い頃は、時間が余るほどあると思いがちですが、一つの仕事を考え、実験系を立ち上げ、首尾よく結果を得て、論文を書くことになっても、論文を書いてpublish にもっていくだけで、かなりの時間が掛ります。
確かに、同じように時間を掛けるなら、できるだけ、本質的に重要なテーマに時間を掛けるべきです。勿論、本質的に重要なテーマは、すぐに糸口が見つかるという簡単なものではありませんが、チャレンジしてみると意外に途が拓けることも多いと思います。
実験科学である以上、手を動かすのは非常に大切ですが、何について手を動かすかを考えるのはそれ以上に大切です。何をやっていても時間が立つのですから。