What's new (2005年)
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EP1による衝動行動の制御

Fight or flightという言葉があるように、動物は社会ストレス下で不安や攻撃性を覚える。ただ、動物は、一般に、これらを直ちに行動に移さず、その場に適応した行動をとる。すなわち、動物の脳内には衝動的な行動を制御する機構が備わっていると考えられる。

今回、松岡らは、この衝動性の制御に、PGE2-EP1経路が関与していることを、EP1欠損マウス、EP1アゴニスト、EP1アンタゴニストを用いて、いくつかの行動実験で明らかにした。

その一つが、下に示す居住者-侵入者テストである。
これは、ある遺伝型の雄マウスを居住者として先にケージに入れ、そこに、同じ遺伝型の幼弱マウスを侵入者として入れて、その間の社会行動を観察するものである。

右に示す野生型では、sniffing、grooming、licking などの社会行動が見られるが、EP1欠損マウスでは、これらが欠如し、居住者が衝動的に幼弱マウスを攻撃している。すなはち、EP1欠損マウスでは、衝動的な攻撃性が亢進していることがわかる。このことは、Electric shock-induced fighting、cliff avoidanceなど他の行動テストでも確認された。

松岡らは、更に、EP1欠損マウスでは、中枢のドーパミン代謝が亢進しこれが行動異常に結びついていること、また、野生型にEP1アゴニストを投与すると衝動行動の抑制が起こることも報告している。
「キレる」人々が社会的問題となっている現在、衝動的行動制御のメカニズムの解明はますます重要になると考えられる。

social interaction test; EP1欠損マウス(左)野生型マウス(右)
*音声はありません

 

アレルギー喘息におけるEP3受容体の働き

喘息は気道過敏性の亢進や気道閉塞を伴う肺のアレルギ−性炎症であり、肥満細胞、好酸球、Th2リンパ球などが関与している。この炎症発現には、気道上皮から産生されるケモカインが重要と考えられている。

今回、國方らは、EP3受容体欠損マウスをアレルギ−喘息モデルで解析することにより、PGE2 が肥満細胞や気道上皮にあるEP3受容体に働いて、アレルギー炎症を抑制していることを見いだした。このため、EP3受容体を欠損したマウスでは野生型マウスに比べて強い肺炎症やTh2サイトカイン産生を示した。

國方らは、更に、EP3アゴニスト投与が、気道上皮でのケモカインやその他の炎症関連遺伝子の誘導を抑え、野生型マウスでアレルギー炎症の発現を抑制することを示した。この治療効果は、アレルゲン暴露数時間後の投与でも見られたことから、EP3アゴニストは、新しい範疇の抗アレルギー薬となりうる可能性がある。

我々は、これまで、PGD2がDP受容体を介し喘息の促進に働くことを示しており、これらの結果は、PGD2とPGE2という2つのプロスタノイドが、アレルギー炎症で拮抗して働いていることを示している。

アレルギーにおける経路と拮抗

( Kunikata et al., Nat Immunol., 6, 524-31, 2005 )

 

ROCK-Iの欠損はマウス胎児で閉眼異常と臍ヘルニアを起こす!

ROCK (Rho-associated kinase)は、Rhoの主要なエフェクターの一つで、GTP-Rhoにより活性化されるセリン・スレオニンキナーゼである。哺乳動物では2つのアイソフォームROCK-Iと ROCK-IIが存在する。

当研究室では以前、ROCK-II遺伝子欠損マウスを作成し、ホモ・マウスが胎盤機能不全で子宮内発育遅延を起こし、大半が胎生期に死亡することを報告した(Thumkeo et al Mol Cell Biol. 23, 5043-5055, 2003)。

今回、清水らは、ROCK-Iノックアウトマウスを作成し、その表現型の解析を行った。ROCK-Iは胎児期の皮膚、心臓、後根神経節、大動脈、臍帯血管で強く発現が認められた。
ホモ・マウスは、大半が出生直後に死亡するが、これはホモ・マウスに体壁閉鎖の欠損による臍ヘルニアがあり、これが、出生直後、母マウスが臍帯を食するときに一緒に食いちぎられるためであることがわかった。

ホモ・マウスは、また、閉眼異常を呈する(下図)。

胎生後期のROCK-I-/-
胎生後期のROCK-I-/-
(KO)マウスでは、眼瞼閉鎖の異常(arrowhead)と臍ヘルニア(arrow)など組織閉鎖の異常が見られる。

野生型マウスでは、胎生15.5日から16.5日にかけ、眼瞼を取り囲むように環状のアクトミオシン束が形成、これが収縮して眼瞼閉鎖がおこる。しかし、ROCK-Iノックアウトマウスの眼瞼では角化細胞層でのアクチン集積およびミオシン軽鎖のリン酸化が認められず、細胞層の伸展の阻害が確認された。また、臍ヘルニアでは、臍周囲でのミオシン軽鎖のリン酸化が認められず、角化細胞からなる臍リングの形成不全が認められた。

このようにROCK-Iは、発生期の各所で、細胞間をつなぐアクトミシン構造の形成とそれによる張力の発生を誘導し、組織閉鎖に関与していることが明らかとなった。

( Shimizu et al J. Cell Biol. 168, 941-953, 2005 )

 

Ect2、MgcRacGAPは分裂中期のCdc42の活性調節に働き、染色体分離を制御する!

我々は、以前、Cdc42が、mDia3を介して、紡錘体微小管の染色体キネトコアへのbiorientな結合を調節して染色体分離に働くことを報告した(Yasuda et al., Nature, 428, 767-771, 2004)。
今回、Oceguera-Yanezらは、この分裂期のCdc42の調節にRhoファミリー のGDP-GTP交換因子 (GEF) であるEct2とGTPase activating protein(GAP)であるMgcRacGAPが働いていることを明らかにした。

彼らは、PAK-CRIBを用いたpull-down法により細胞分裂中期にCdc42が活性化されていること、この活性化がEct2とMgcRacGAPにより調節されていること、下図にあるようにRNAiによるCdc42やEct2のdepletionやMgcRacGAPのドミナント・ネガティブ体の発現は、等しく、紡錘体微小管の染色体へのbiorientな結合の異常を来たし、これらのmetaphase plateへの集合を阻害することを見いだした。

これまで、Ect2とMgcRacGAPは、分裂終期の細胞質分裂でのRhoの活性化の調節に働くことが報告されており、今回の知見は、同じGEFと同じGAPが、分裂周期によってCdc42とRhoという異なったGTPasesを調節し、染色体分離と細胞質分裂という2つの重要なプロセスに働いていることを示唆するものとして注目される。興味のある方は、これについての総悦も参照されたい(Narumiya, S. and Yasuda, S., Curr Opin Cell Biol. 18, 199-205, 2006)。

Cdc42、Ect2-RNAi細胞の分裂像
Cdc42、Ect2-RNAi細胞の分裂像
RNAiでCdc42やEct2の枯渇をおこした細胞では、spindle pole付近に留まる染色体(矢印)など、染色体の配列異常が見られ、染色体分離が阻害される(red, beta-tubulin; blue, DAPI; green, EGFP-histone H2Bk)

Oceguera-Yanez et al., J Cell Biol. 168, 221-232, 2005