What's new (2007年)
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EP1による線条体ドーパミン・シグナルの増強

 ドーパミンは、神経伝達物質の一つで、D1、D2などの受容体に結合し運動、感情、認知といった神経系の多様な機能を発現している。このため、ドーパミンの作用がどのように調節されているかを明らかにすることは、上記の神経機能を理解するために重要である。今回、北岡らは、ドーパミン作動性ニューロンが投射している線条体で、EP1がドーパミン・シグナルを増強することをEP1欠損マウスやEP1アゴニストを用いた行動実験やスライスでの生化学実験で明らかにした。
 北岡らは、まず、EP1が線条体の神経細胞に発現していること、線条体スライスでドーパミン受容体作動薬刺激によりPGE2が産生されることを明らかにした(下図)。次に、ドーパミン濃度を上昇させる薬物であるコカインをマウスに投与し、EP1欠損マウスではコカインによる運動量増加が野生型マウスと比較し抑制されていることを明らかにした。また、EP1欠損マウスではD1、D2受容体作用薬に対する反応も減弱していた。一方、コカイン投与後のドーパミン濃度や、ドーパミン受容体数には差がなかった。北岡らは、そこで、ドーパミンのシグナル伝達に対するEP1の効果をDARPP-32のリン酸化を指標として検討し、EP1欠損マウス由来の線条体スライスではD1およびD2刺激後のシグナル伝達がともに減弱していること、反対に、EP1アゴニストは野性型スライスでD1受容体のシグナル伝達を増強することを見出した。これらの結果から、線条体で、PGE2がドーパミン受容体刺激により産生され、EP1を介してドーパミンD1およびD2の作用を増強していることが明らかとなった。 EP1アゴニストがドーパミン・シグナルを増強することから、本薬物がドーパミン不足により生じるパーキンソン病における運動失調を改善させる可能性が示唆された。

免疫染色により線条体におけるEP1の発現

免疫染色により線条体におけるEP1の発現を調べた。
DYNやENKは線条体の神経細胞のマーカーである。


PGE2EP1経路は、T細胞のTh1細胞への分化を促進し、Th1型免疫反応を亢進する

 プロスタグランジンE2(Prostaglandin E2 ; PGE2)は生体内で刺激により産生される生理活性脂質の一種であり、EP1,EP2,EP3,EP4と呼ばれる特異的受容体のいずれかに結合することで生理活性を発揮する。臨床で汎用されるアスピリンやインドメタシンといった解熱鎮痛抗炎症薬 (NSAID)はPGE2を含むPG類の産生を抑えることでその効果を発揮している。このことから、PGは、炎症、発熱、痛み伝達など急性炎症の症状発現に関わるとされており、当教室のこれまでの研究でその分子機序が解明されてきた。一方、上記NSAIDは、免疫反応への作用は少ないことから、PGの免疫での役割は良く知られていなかった。
 今回、当研究室の長町と坂田らはPGE2がT細胞上のEP1受容体に働いて、ナイーブT細胞のTh1型細胞への分化を促進することを見出した。彼らは、免疫炎症モデルである接触皮膚炎モデルを用い、これをEP1欠損マウスに適用することで、EP1の免疫系での役割を解析した。まず、1日目に接触皮膚炎を起こすことが知られているDNFBという抗原をマウス腹部に塗布し免疫を成立させ、5日後に同じ抗原を耳介に塗布、生じる免疫炎症の程度を野性型と比較した。その結果、EP1欠損マウスは野生型マウスと比較して免疫炎症の有意な低下を示すことが判明した(図1A, B)。この免疫炎症の低下は、免疫成立時に野生型マウスにEP1拮抗薬を投与することでも再現された(図1C)。このメカニズムを解析した結果、EP1欠損マウスでは、抗原投与後のリンパ節でナイーブT細胞のTh1細胞への分化が有意に減弱していることが明らかとなった。彼らは、また、免疫時のリンパ節でPGE2を産生するPGE合成酵素含有細胞が増加することも示している(図2)。これらの結果は、抗原免疫時に、局所リンパ節でPGE2が産生されT細胞上のEP1に働いてTh1細胞への分化を促進し、Th1型免疫反応を亢進していることを示したものである。T細胞は、Th1やTh2などいくつかのサブセットに分化し、これらサブセットのバランスの崩れが最近におけるアレルギー疾患の増加に結びついているとの考えもある。このことから、Th1分化を選択的に促進するPGE2-EP1経路は薬物開発の重要なターゲットの一つに成り得ることが考えられる。

EP1欠損マウスにおける接触皮膚炎反応の減弱
図1.EP1欠損マウスにおける接触皮膚炎反応の減弱
耳介の腫脹を指標に免疫反応を評価した結果、EP1欠損マウスでは野生型マウスと比較して反応が有意に減弱していた(A, B)。 このような表現型は野生型マウスにEP1拮抗薬を投与することで再現できる(C)。

DNFB感作後のリンパ節細胞におけるPGE2合成酵素(mPGES-1)の発現
図2.DNFB感作後のリンパ節細胞におけるPGE2合成酵素(mPGES-1)の発現
DNFB感作後のマウスリンパ節から免疫細胞を分離し、樹状細胞のマーカーであるCD11c(赤色の染色)とmPGES-1(青色の染色)に対する抗体で染色した(左の写真)。 赤色と青色の染色が重なっていることから樹状細胞がPGE2合成酵素であるmPGES-1を発現していることが分かる。このようなmPGES-1を発現している樹状細胞の数をフローサイトメトリーによって定量すると、DNFB感作後のリンパ節ではその数が増加していることが分かる(右のグラフ)。

 

Rho GTPasesはAurora-Aの中心体での活性化を介してG2-M期進行を調節する。

 細胞は、G1, S, G2, M期をへて分裂、増殖し、これら各期の進行はその時点での細胞状態をモニターするチェック機構により厳密に制御されている。細胞周期進行のいくつかのステップは、各期における細胞形態と密接に関連しており、これを制御するRho、 Rac、 Cdc42 などのRho GTPasesはG1/S期進行や細胞質分裂で働く。しかし、これまでRho GTPases のG2/M期への関与と役割は不明であった。
 今回、安藤らはRho GTPasesの阻害酵素であるClostridium difficile toxin Bを用いて、G2/M期進行におけるRho GTPases の働きを検討した。Toxin BによるRho GTPasesの不活化により、DNA凝集やHistone H3のリン酸化が2時間遅延しG2期からM期へ進入が阻害されていることが明らかとなった (図1)。この現象はM期進入に中心的な役割を果たすCyclin B-Cdk1の活性化遅延に起因しており、これに先立つ中心体でのAurora-A の活性化も遅延していることが確認された。Aurora-A活性化には、G2初期中心体でのPAKの活性化やG2中期中心体へのHEF1の集積が必要であるが、安藤らは、toxin B 処理によりこれらが抑制されていることを見出した(図2)。Rho GTPasesのうち、RacやCdc42はPAKの活性化を起こすことが知られていることから、これらの結果より、Rac/Cdc42がG2初期中心体でのPAKの活性化、G2中期のHEF1の中心体への集積を制御してG2/M期進行に働いていることが示唆された。  これらの結果は、これまで不明であったRho GTPasesのG2/M期進行への関与を明らかにしたものであり、Rho GTPases が中心体でのAurora-A の活性化に至る複数の経路を調節してG2/M期進行を制御していることを明らかにしたものである。

Rho GTPasesの活性阻害 Rho GTPasesの活性阻害2
図1.Rho GTPasesの活性阻害により、DNAの凝集(左図)や、M期進行のマーカーであるHistne H3 Ser10のリン酸化(右図)が遅れ、G2期からM期への進行が遅れている事が示されている。
図2. Rho GTPasesの活性阻害はG2期centrosomeにおけるPAKの活性化を減弱させた。

( Ando, Y. et al. Mol Biol Cell. 18: 3752-3763, 2007 )

 

Dia1はT細胞の胸腺からの出動、リンパ節へのホーミングに働く

 T細胞(Tリンパ球)は、胸腺から末梢へ、末梢からリンパ節・脾臓へ、リンパ節から末梢へと生体内を移動して免疫監視にあたっている。これら方向性を持ったT細胞の生体内移動は、免疫反応にとって最も重要な現象の一つである。方向性を持った細胞移動は、一般に、Rho、Rac、Cdc42などの低分子量G蛋白質とその下流で働くエフェクターが細胞骨格系を動的に編成することで遂行される。mDiaとWASPはそれぞれRhoとCdc42の下流で働くエフェクターであり、哺乳類細胞の二つの主要なアクチン重合システムとして働いている。WASPの重要性はWASP遺伝子に変異を持つWiskott-Aldrich syndromeの患者やWASP遺伝子欠損マウスで見られる免疫不全で明らかにされていたが、mDiaが生体内でどの程度の意義を持つかは不明であった。
 当研究室の坂田と谷口らはmDiaアイソフォームの一つであるmDia1の欠損マウスを作成し、その生理機能を解析した。mDia1欠損マウスは正常に誕生し成長したが、野生型マウスと比較して末梢血、リンパ節、脾臓でT細胞数の減少を、胸腺で成熟胸腺細胞数の増加を示した。これらの原因を検討した結果、mDia1を欠損したT細胞は、in vitroで細胞極性、アクチン重合、遊走、細胞増殖の減弱を、in vivoで末梢リンパ組織へのホーミング低下を示し、胸腺細胞も遊走能の減弱と胸腺からの移出低下を示すことが明らかとなった。このようなmDia1欠損T細胞の機能低下はT細胞優位な免疫アレルギーモデルの一つである接触皮膚炎モデルで免疫反応の低下として個体レベルでも示された。これらの結果はこれまで未知であったmDia1の生理的役割を明らかにしたものであり、mDia1を標的とした免疫抑制の可能性を示すものである。

Dia1

図1. mDia1欠損T細胞の遊走能の減弱
野生型及びmDia1欠損マウスからT細胞を分離し、トランスウェルチャンバーを用いてchemotaxis assayを行った。mDia1欠損T細胞は野生型T細胞と比較して、ケモカイン(CCL21)に対する遊走能が減弱している。



Dia1

図2.mDia1欠損T細胞でのアクチン重合能の減弱と細胞極性の減弱
野生型及びmDia1欠損マウスからT細胞を分離し、ケモカイン(CCL21)刺激後に細胞を固定し、F-actinを染色した。mDia1欠損T細胞ではケモカイン刺激後のF-actinの蛍光強度と細胞極性が減弱している。